今回は一見非力に見えるAアンプの方が何故音質がいいというのか、説明したいと思います。
なぜかというと、Bアンプではアイドリング電流を大きくできず、トランジスタの内部抵抗が大きい領域を使用せざるを得ないため、(見かけとは逆に)低音の量感、締りがないものになり、中高音も硬い音になるからです。
次にそれではもう少し定量的に説明しましょう。放熱器の放熱効率はこの大きさだと0.5℃/W程度です。無信号時の放熱器の温度上昇を20℃まで許容すると(これはかなり大きい場合です)、この放熱器では40Wの電力が使用限界です。Aではパワートランジスタ1個あたりの無信号時の消費電力20W、Bの場合は一個当たり6.8Wが限界です。電源電圧が50Vだとすると(150W級のパワーアンプの電源電圧)、Aの場合アイドリング電流は0.5A、Bの場合のアイドリング電流は約0.14A以下にする必要があります。
ここで見ていただきたいのは、実は大型パワートランジスタの0.14Aの付近の特性は非常に悪いことです。
この図はコレクタ損失150Wの比較的新しい設計のオーディオアンプ用パワートランジスタの特性です。パワートランジスタとしては最大級のもので、大出力パワーアンプにもよく用いられています。縦軸がコレクタ電流Ic、横軸がベースエミッタ間電圧Vbeです。パワーアンプは基本的に電圧増幅器ですので(負荷のインピーダンスが小さいので結果的に大電流が流れてパワーアンプとなる)、入力電圧に比例した出力電圧が発生し、それに比例した電流Icが流れます。IcとVbeの傾きがスピーカー側から見たアンプの内部インピーダンスRmになります(厳密には違うのですが)。実際にはNFBがかかりますので、NFBの分だけ出力インピーダンスは下がりますが、基本的にはRmに比例(傾きに反比例)することになります。このパワートランジスタの場合1A以上で傾きが大きく、したがってRmが小さく(50mΩ位)になりますがが、アイドリング電流0.14A付近では傾きがかなり寝ているのが分かると思います。Bタイプのアンプは特に小信号時にこの傾きの小さい領域を使わざるを得ないのです。NFBがかかればダンピングファクターは最大数十くらいにはなるのでそこそこの音は出ますが、低音の量感、締まりは(見かけによらず)期待できないのです。
アイドリング電流が小さいことによる弊害はそれだけではありません。
· 小音量時のダンピングファクターが数十倍になる。(小音量時ほど音質が悪い)
· 歪が多くなる
· 電源スイッチを入れても時間がたたないと音質がよくならない
· (それどころか本当は時間がたってもそこそこの音にしかならない)
· 中高音が硬く感じられる
などの現象が発生します。アンプの教科書にはアイドリング電流は50mA程度が最適と書いてあったりしますが、実際歪率を測定してみるとやはりアイドリング電流を大きくした方が特に小信号時の高域の歪率が下がりますし、アイドリング電流が小さいアンプの音は音が硬く,聞けたものではありません。
一方Aタイプのアンプの方はやや小さめのパワートランジスタ(小さ目といっても昔のパワートランジスタ並)を使用しています。
このAタイプのパワーアンプの場合アイドリング電流が0.5Aまで設定できますので、ほぼ直線領域から使用していますので、小音量時でも内部抵抗が最小の部分で動作させていることになります。こういった設計をしたアンプの音質はBタイプとは逆に
· 小音量時でもダンピングファクターが一定である。(小音量時でも音質は変わらない)
· 特に低音の量感・締りが非常に良い
· 特に小音量時の歪率特性が良くなる
· 電源スイッチを入れた瞬間からいい音(時間がたっても音質は変わらない)
· 弦楽器などで中高音の柔らかさがよく表現される
といった特徴があります。
何故Bタイプのアンプが本質的に悪いのか、次回さらに詳しく説明させていただきます。 (2007/11/21)