OPアンプはオカマアンプ

最近のアンプは外観は立派だが、その分内容は平凡なものも多い。その典型が数十万円以上するアンプで主信号回路にOPアンプを使用しているものだ。OPアンプがすべて悪いとは言わない、回路の簡素化には大いに約に立つし、性能もそこそこ良い。ただ数十万円するアンプで心臓部がOPアンプというのは、例えて言うなら1000万円の車のエンジンが、軽自動車のエンジンを流用していたというようなもので、それでいいのかと思ってしまう。

ある時、ある高性能OPアンプの等価回路を見ていて驚いたのだが、実は弊社のフラットアンプとほぼ同じ回路だった。もともとこのOPアンプの回路を知っていてフラットアンプをまねて作ったわけではないのだが、結果的にほぼ同じ回路になっていたという事だ。OPアンプの世界はアナログの新回路、新技術が開発される主戦場の様なものだったので、不思議ではない。それにアナログのアンプ回路なんていろいろあるといってもバリエーションはたかが知れているので、いいものを作ろうと思って設計したら同じものだったという事も十分ありえる。下図はOPアンプとフラットアンプの回路図で、目立った違いといえば初段が弊社アンプはFETなのに対して、OPアンプはトランジスタという事くらいか。ついでに言っておくと、このOPアンプは半導体製造プロセスの中では高級なプロセスを使用しており、そのため通常のOPアンプの10倍くらいの価格がついている。その高価格の故か現在は製造中止になっている。


ある高性能OPアンプの等価回路


弊社プリアンプの回路
(わかりにくいかもしれませんが回路的には上記OPアンプと良く似ています)

 

回路だけを見ると何だOPアンプと同じではないかと思われるかもしれないがOPアンプとディスクリート回路では内容がまったく異なる。どういうことかというと、こういうこと。

 

1. ディスクリートトランジスタ(Tr)と違って結晶性が悪いのでTrの基本特性が悪い

個別Trはエピタキシャル成長でシリコン結晶を成長させるが、IC(OPアンプ)の場合は結晶に後から不純物を拡散又は注入するので結晶性が悪く、結果的に移動度が下がり高域特性が少なくとも1桁悪化する

 

2. 出力段のコンプリメンタリートランジスタは擬似トランジスタ

OPアンプにしろディスクリートアンプにしろアンプ出力段はSEPP出力でNPNとPNPの組み合わせ(コンプリメンタリー)で+-をスイングする。OPアンプの場合製造工程上、同一基板にNPNとPNPを適切な条件で形成できないため、片側のTrが擬似トランジスタとなり特性が著しく劣る。男女のカップルのはずが「男性とオカマ」、あるいは車の駆動輪の片方が補助タイヤみたいなものです

 

3. そもそもすべての素子がダイオードでつながっている

OPアンプというよりICというのはそもそも各デバイスの素子分離をPNジャンクションの逆接続で行っている。ダイオードに逆電圧を印加した状態で電流は流れないが、空乏層の容量は電圧に依存して変化するので可変容量コンデンサですべて相互に接続された状態と同じなので寄生容量、寄生トランジスタが必然的に発生する
分離されていると思っていても、いろいろなところが"うじゃうじゃ"つながっているので、正確なところもうどうなっているかわからない

 

4. 抵抗は拡散層か多結晶(粒界もあるよ)

ICの場合実際にカーボンとか抵抗体の皮膜を形成するわけではなく、拡散層あるいはポリシリコンで代用する。ポリシリコンなんてその名のとおり多結晶でしかも配線幅が非常に狭いμ単位ので抵抗体を粒界が横切っているのが普通。粒界には不純物ドーパントが蓄積されたり、ああ気持ち悪い。オーディオの人は抵抗だコンデンサだ、電線だ、はたまたACコンセントなんかに凝るくせに、こういうところにはまったく無関心なのが不思議。というより知らないだけだろう。美味しいと評判のレストランの調理場が超汚く、その汚れが実はスパイスになっていたというようなものか? 実際にはアンプの特性はアンプ内部の直線性などには依存せず、外部のNFB抵抗などで決まるので、直接関係ないといえば無いのだが、興味のバランスが悪すぎると思う。

 

5. 配線はアルミしかも寿命有り

OPアンプなどの汎用ICの配線はアルミです。細い線に電流を流すので電流密度がもの凄く、エレクトロマイグレーション(何じゃそれ)もおきるので、寿命もある。これも超キモイです。

という様にOPアンプの細部を見るととても主信号回路に使いたくなくなるのだが、実際に音質上の変化としては、

・音が濁る
・情報量が少なくなる
・薄っぺらな音に聴こえる
・臨場感がなくなる

という結果になって現れる(と思っている)。もちろんこれらは実際には微妙な変化で誰がどの装置で聞いてもこうなるというわけではない(ケーブルなどよりは大きな差だと思うが)。 加えてOPアンプは実装状態での基本性能が実は悪いので、

・外付け要因に左右されやすい(本来の性能を発揮しにくい)
・高調波歪の成分が複雑(耳につく歪を発生する)

などという事も知っておくべきだろう。 OPアンプの(数値)性能がもの凄く良くても、ちょっとした容量負荷で性能が数分の1に落ちたりする事はよくある。出力インピーダンスの大きな信号源で駆動すると(パッシブプリを使用した場合などに相当)、高域の歪率が1桁以上悪化する事もある。

 


ある高性能OPアンプの帯域幅と負荷容量の関係
数百ピコの容量負荷で数分の1に落ちる

 


ある高性能OPアンプのスルーレート(立ち上がりの早さ)の負荷容量依存性
数百ピコの容量負荷(普通のオーディオケーブルをつないだだけで)で数分の1に落ちる

 

そうは言ってもOPアンプにも効能はある。例えば、

・CDはまともに聴くとうるさい事があるので、その"うるささ"を緩和するのには(音の濁りが)役立つ事がある(電解コンデンサを通すようなものといったらおわかりいただけるだろうか)
・なんと言っても安く仕上がる、その分のコストを外観に振り分ければ、製品としては立派に見える(結果的に評価も上がる)

という事になるのではないだろうか。

もちろんOPアンプの利用価値を否定するものではなく、コストパフォーマンスは抜群だしOPアンプで十分だったり、下手に作ったディスクリートより性能が良くなったりする事はある。ただ高価なオーディオアンプの主信号回路としては???ということである。実は数十万円の主流のアンプににも結構OPアンプが心臓部に入っていて、それが一種の標準になっているので、弊社のアンプの様にすべてをさらけ出すアンプの場合、単純に従来のアンプと入れ替えただけでは良く聴こえない場合もあったりする。もちろん弊社のアンプで調整し(もちろん無調整でよくなる事も多々あるが)いい結果を出した方がひと皮剥けたいい音になるのだが・・・。

(2009/08/06)