これだけは知っておきたい音響工学(その1) -1/r²の法則-

 

コンサートホールにしろ家でのスピーカーシステムの設置にしろ、音響工学の知識で覚えておくと有益な法則がある。原理自体は工学を学んだものにとっては当たり前のことではあるが、多少オーディオ的に拡張して紹介したいと思う。一つは1/r²則でもう一つは音の干渉効果である。まずここでは1/r²則について説明する。
 

 

自由空間


    I ∝ 1/r²

球

”1/r²の法則”というのは勝手にここでそう呼んでいるだけだが、音響工学に限らず電気・物理で良く出てくる法則である。音響の分野で言うと、音の大きさが距離の2乗に比例して小さくなるという事である。つまり音源から1mの距離の音にに対して10mの距離の音の大きさは(1/10ではなく)1/100になるという事がミソだ(2乗になると大きさが劇的に変わる事を感じて欲しい)。なぜこうなるかかというと、距離rの球の表面積は4πr²/3になるからで、よって単位面積当たりのエネルギーが1/r²になるからである。この法則はエネルギー保存則からも直感的に把握できる。ただしこれは自由空間と呼ばれる状況で、周りに壁が何も無いときである。例えば無響室等がこれにあたる。

 

 

半自由空間

 

 

床だけのある場合も自由空間と同じになる。例えば屋外とか、サントリーホールのように近くに壁が無い場合もその状況に近いだろう。1/r²の法則は同じだが床があると強度は2倍になるので正確には2×1/r²になる。もちろん音の大きさがが1/r²に比例する関係は変わらない。

 

天井高さが低い、あるいは幅が狭い場合


    I ∝ 1/r 

幅の狭い部屋    
低い天井の部屋

 

ただし、天井や壁があるほとんどの場合は状況は変わってくる。 比較的低い天井がある場合とか、天井は高いが幅の狭い部屋があって、天井や壁の反射率が高い場合(硬い材料でできている場合)には、音が拡散する空間が限 られてくる。表現をかえれば距離rに対する表面積の増加が制限されているという状況である。

 

 


例えばこの図のように低い天井で壁が近くにない場合は音が横方向だけに拡散するので音が通過できる断面積の面積は、hx2πrになる。ここでhは天井高さである。反射がある場合は本来干渉効果も考慮する必要があるが、ややこしくなるのでここでは考えない。したがって今度は音の強さは1/rに比例する事になる。2乗ではなくて1乗に反比例する点が大きく異なる。1mと10mの距離での音の大きさの違いは今度は(100倍ではなく)10倍である。

 

天井が低く、幅が狭い場合(うなぎの寝床タイプ)


1/rº (=1)

 

さらに壁、または天井などの反射面が2面ある場合はどうなるかという事を考えてみる。例えば幅が狭く天井があって、奥行きだけがあるようなうなぎの寝床の様な部屋である。この場合奥行きに対して断面積は増えないので音の大きさは奥行き方向に対して変化しないという事になるはずである。数学的には1/r º (=1)に比例するといえる。こういう部屋は実際にはほとんど無いかもしれないが、他の話で言えば光ファイバーや導波管などはこのタイプだといえる。

 

以上3タイプの部屋の形に対する音の大きさを考察してみたが、形によって劇的に変わるという事をご理解いただけたと思う。音の大きさが1mの距離で100だったとして、今度は10mの距離では自由空間では1(=1/100)になってしまうし、天井があれば10(=1/10)、左右に壁もあれば元と同じ100になる可能性があるということだ。もちろん実際の天井や壁の反射率は1ではないので、そうはならないにしても大変大きな影響があるという事だ。

 

コンサートホールに当てはめてみると

 

コンサートホールの音質についてはこちらのブログで紹介している。私の場合、コンサートに行って音楽を聴くと演奏者や指揮者よりも実際に届いてくる音質(ホールの音質)の方が大きく気になるし、ホールによって劇的に変わってくるので、気になってしかたがなかった。上記の法則をコンサートホールに当てはめてみると、音響効果(音質の良さ)との相関が結構みえてくる。サントリーホールは私は非常に反響の悪い(無いという意味で)ホールだと感じているが、それもそのはず周りに反射壁がまったく無いので(あるのは床だけ)、音が非常に小さくなってしまう。こうなるとわずかな反響音の残響時間がどうのこうの言っても始まらない。超高級オーディオ装置を蚊の鳴くような音量で再生しているのと同じで、大音量のラジカセにすら負けてしまうのである。もちろんこれだけでホールの音質を完全に説明できるものではないが、あるい程度の説明ができてしまう(と思っている)。

 

 

反対にJTホールの音質がすばらしく良かったのは天井が高いものの、幅が比較的狭いので音が後方にまで非常に豊かに届くからだと思っている。

 

次にもう一つの非常に重要な干渉効果について次回に紹介したい。こちらの方はスピーカーのセッティングに非常に重要なポイントとなる。 (2010/10/05)