6月
25
2008
パワーアンプの出力段に使用される素子の基本特性をまとめると以下のようになります。
| 項目 |
オーディオ用
トランジスタ
2SC5200 |
オーディオ用
MOS-FET
2SK1529 |
一般用
UHC-MOS
2SK2967 |
備考 |
| 最大電流 |
15A |
10A |
30A |
最大電流の点では1個で十分 |
| 内部抵抗(=1/gm)@0.1A |
0.25Ω |
2Ω |
1.4Ω |
トランジスタの内部抵抗が一番小さい |
| 内部抵抗(=1/gm)@1A |
0.03Ω |
0.4Ω |
0.17Ω |
|
| 熱暴走 |
有り |
無し |
無し |
熱暴走があるということはある程度のエミッタ抵抗が必要になることを意味します |
| エミッタ(ソース)抵抗Re |
0.2-0.5Ω |
0-0.5Ω |
0-0.5Ω |
FETではこの抵抗は省くことも可能ですが、製品には付いていることが多い |
| 高調波歪 |
小 |
中 |
中 |
gmが大きいほうが歪率は小さくなります(トランジスタのほうが有利) |
| クロスオーバー歪 |
中 |
小 |
小 |
FETの方がクロスオーバー歪は小さくなります |
| Cob,Cin |
Cob:200pF |
Cin:700pF |
Cin:8000pF |
UHC−FETはもうコンデンサをドライブするようなものです高域歪が悪化します |
| コメント |
熱暴走がありますが特性は一番 |
特徴を生かせば高性能 |
実は使いにくい素子です
Pchコンプリもありません |
|
繰り返しになりますが、UHC−MOSと比較してもトランジスタの方が動作抵抗は小さいのです。ただFETの場合はソース抵抗を小さくできますのでトータルで出力インピーダンスを下げられる可能性はあるのですが、市販品では安全上そこそこのソース抵抗をつけていますので必ずしも特徴を活かしていないともいえます。最近MOS−FETを並列接続している製品を見かけますが、MOS-FETはもともと数十Aの電流が流せるので、並列接続の必要がありません。
FETの短所の一つは容量が大きいことです。オーディオ用のFETはまだこの点が改善されていますが、一般向けのUHC0-MOSになると8000pFもありドライブするのも大変です。高域の周波数特性、歪率特性が特に悪くなります。並列接続するとさらにこの短所が強調されるだけでメリットはほとんどありません。
パワーアンプの出力段についてはクロスオーバー歪についても考えなければいけません。パワーアンプの場合、実用的出力を得ようとすると、どうしてもAB級動作になります。+と-信号に振れた際NPN/PNPでスイッチング動 作になりますので、その歪成分はNFBで低減しないと使い物になりません。トランジスタは入力電圧に対して指数関数的に出力電流が変化するのに対して、 FETでは1/2乗に比例した電流が流れるという性質があり、クロスオーバー歪は FETの方が原理的に小さいという性質があります。ただし、FETはgmが小さいのでもともとの歪の絶対値が大きいという短所もあり、結局FETとトラジスタでど ちらが低歪かというのは、素子単体で単純に決まりません。ただ、高調波歪率の比較だけで言えばトランジスタの方が絶対値は小さくなる傾向がある様に思います。
パワーアンプの出力段について説明してきましたが、出力素子だけを考えてもこれだけの要素があり、「出力段がxxだから音が○○だ」というのはあまりにも単純過ぎますし、雑誌などの見出しに書かれている様なMOSだからxxだ見たいな文言も私から見ると「そうかなー」と首をかしげることが多いのです。
もちろんここでの議論はトランジスタとFETでどちらが音がいいとかいっているわけではなく、それぞれの素子の特徴を活かした回路設計をすることが重要ではないでしょうか?といいたいのです。弊社のパワーアンプDCPW-100ではオーディオ用トランジスタを1段で使用して、そのパワー特性を目いっぱい使い切る設計になっています。
ついでにもう一言いうと最近の老舗メーカーの回路構成をみると、原理に逆行した首を傾げたくなる設計のものが多くなってきています。不利を承知でそのほうが売れるのでやっているといえば、メーカーとしては間違っているわけではないと思いますが、そうではなく単に設計者の技量が落ちてきているだけの様にも見えるのです。メーカーだけでなく、それを伝える雑誌や評論家、さらに買い手の方ももう少し理解を深めないと、どんどん変な定説だけが一人歩きしていくようになってきていると心配しています。
6月
19
2008
パワーアンプの出力段について、半導体の内部抵抗という観点から説明してきましたが、実際に使用される回路においてはもう少し考察が必要です。次の図はパワーアンプの最終出力段の回路を書いたものです。トランジスタのところはFETに置き換えても同じです。

実際の回路においてはトランジスタのエミッタ(FETのソース)の部分に抵抗を挿入します。これは大電流が流れたときに電圧を発生させ、結果的にトランジ スタの入力電圧Vbeを減少させるもので、電流帰還の一種です。トランジスタの場合流れる電流が大きくなると発熱しさらに電流が流れるということを繰り返 し熱暴走して破損する恐れがあるので必須です。通常0.47Ω位の抵抗が用いられます。トランジスタの動作抵抗(1/Gm)は電流値にもよりますが、 50mΩから数百mΩですから実はこのエミッタ抵抗の方が大きいのです。もちろんNFBによって数百から数千分の1に減少しますから問題にはならないのですが、半導体素子よりもむしろ、直列に挿入する抵抗の方がどちらかというと邪魔になるということです。
出力段が熱暴走を起こさない必要十分条件は
Re+(1/Gm)>θjc・Vcc/500
で与えられます。(*1)
ここでθjcはトランジスタの内部熱抵抗です。要するにReと1/Gmの和(出力段の内部抵抗)は上式の右辺以下には下げられないのです。出力段を並列接続にするとRe+(1/Gm)の値も減りますが、トランジスタのばらつきによる電流集中を抑制する必要があるのと、熱結合が弱くなる影響を考慮してReを大きくしなければならないので、効果はさほど大きくはありません。むしろ出力段の帰還容量が増えて高域の歪が大きくなる弊害の方が怖いのです。
FETの場合はどうかというと、温度係数が負の場合が多いので、Reを小さくまたは省略できます。アマチュアの製作するアンプにはReを省略したものがありますが、メーカーの製品では小さ目のReを入れてる場合が多いようです。内部抵抗という観点から見ると、UHC-MOSを使用し、Reを省略した場合でも、注意深く設計されたトランジスタアンプとせいぜいどっこいどっこいといったところです。
FETを使用する聴感状のメリットもあると思いますし、他にもクロスオーバー歪など考慮すべき項目はあるのですが、「FETはダンピングが良い音がする」などとは単純に定説化しない方が(むやみに信じないほうが)いいと思います。
*1 基礎トランジスタアンプ設計法 黒田徹著 ラジオ技術社
6月
18
2008
半導体パワーアンプの出力素子にはバイポーラトランジスタとFETがありますが、両者の特質を比較してみたいと思います。
FETは歴史的にはいろいろありますが、現在でも入手が可能なのはMOS-FETだと思いますので、MOS−FETとバイポーラトランジスタを比較してみたいと思います。
下の図はパワーアンプ用に作られたMOS-FETの一つ2SK1529の伝達アドミッタンスYfs(Gmと同じ)特性です。これは入力電圧Vgsの変化に対する出力電流Idの逆数です。
すなわち Yfs=ΔId/ΔVgs です。これを出力段に用いた場合の出力インピーダンスはYfsの逆数になります。たとえばYfsが2(s)の場合、0.5Ωになります。実際のアンプではNFBをかけますのでNFBの分だけ(数百から数千分の1に)出力インピーダンスは下がります。アイドリング電流は一般に0.1A程度ですから、NFB前は2Ω(=0.5S)くらいの出力インピーダンスになります。結構大きいのです。余談ですが出力段がNON-NFBのアンプではこのままの出力インピーダンスになるので低音がまったくしまらなくなる(はずな)のです。UHC-MOSといわれる素子でもたいして改善されず青と黒線の間くらいです。

オーディオ用MOS-FETのYfs(Gm)特性(黒)とトランジスタのGm特性(青)
ところで、青線は何かというとトランジスタのGm特性です。トランジスタの場合、不思議なことに(理論的にそうなるので不思議ではないのですが)すべての素子で同じGm値になります。Gmは
Gm=(kT/q)Ic=38.7xIc で表されます。
実際にはトランジスタ内部のエミッタ抵抗成分があって、あるところで飽和し始めますが、パワートランスタでは30s(約30mΩ)くらいまでは伸びています。
トランジスタの方が全領域でGmが約一桁大きいので、出力インピーダンスはトランジスタの方が原理的には一桁小さくなります。
ただしそうは問屋が卸してくれず、実際のアンプでは過電流保護、熱暴走対策にエミッタ抵抗を挿入しなくてはならないので話はもう少しややこしくなります。
よくMOS-FET、UHC-FETを使用したのでダンピングがいい音がするといわれていますが、実際には素子そのものの特性から考えると逆でそんな単純な話ではないということだけは覚えていただきたいと思います。
6月
11
2008
アースとアースループについて説明してきましたが、長くなったのでここでまとめてみたいと思います。オーディオ機器の望ましいアース接続方法をまとめると以下の通りとなります。

1. オーディオ機器は使用していないものも含めてなるべくたくさんの機器を接続する
・アース電位を安定にするため
・信号ケーブルの接続によって自動的に相互のアースが接続される
・アースを切り替えるタイプのセレクターは使用しない(アースループを作らないと称するセレクターは逆効果です)
2. 電源ケーブルのアース線は接続しない
・多重アース防止のため
・3PのACケーブル(オーディオ用のACケーブル)を使用すると自動的に多重アースになるため注意
3. 壁コンセントのアースには基本的に接続しない
・他の重電機器のノイズを拾わないため
・集合住宅では特にたくさんのノイズをもらう可能性があります。
・独立したアースを作ってもだめです。地中のアースを通じてノイズを拾うため
・家にノイズを発生する機器が接続されていなくても、近隣でアースにノイズを逃していれば同じことです。
以上の接続方法はピュアオーディオ的に考えて合理的な接続方法です。いわゆるオーディオのHowTo本とはまったく異なる方法に結果的にはなっていますが・・・・。
<ただし店舗でたくさんのお客様が機器に触れるとか、水にぬれた状態で機器を操作する場合などはもちろん安全のためアースした方がいいでしょう。