12月
18
2007
オーディオ装置の品質を表す指標のひとつに歪率があります。
ある周波数の正弦波を入力し、その基本波を除いた高調波成分とノイズを計測し全高調波歪率となります。
アンプなどでも品質を表す重要な指標だと思いますが、その反面実際の試聴結果と合わないところもあって、歪率が小さいアンプほど音がいいと言い切れないのも事実です。
また全高調波歪率と聴感上の歪感も必ずしも一致しない場合もあります。たとえば真空管アンプでは歪が気になるレベルは0.1%から1%くらいですが、半導体アンプでは0.01−0.05%のレベルで気になりだします。よく雑誌などでは、真空管アンプは2次高調波が主成分で、半導体アンプは3次高調波なので真空管アンプの方が歪が気にならない(偶数次高調波は聴感上さほど有害ではない)と言う説明を見かけます。しかし実際には半導体アンプの3次高調波歪はおそらく真空管アンプのそれよりも小さいので、それも的を得た説明とも思えません。
そもそも2次高調波、3次高調波成分が多少混じったくらいで音が歪む様に聴こえるはずは無いのです。2次高調波は基本波の2倍の音、3次高調波は3倍の音ですから、ピアノで言うと第2高調波は、ドの音に対して1オクターブ上のドの音、3次高調波は1オクターブ上のその音になります。
図にするとこんな感じ(周波数はおよそです、ほんとは無理数ですし調律法にもよるので)
ピアノの音は元からたくさんの高調波成分を含んでおり、、単純にはいえないかもしれませんが、ピアノで
”ドドソ”と和音を弾いた時に、上の方の”ド”を1%強く引いたり(2次高調波が1%増える)、”ソ”の音を1%強く弾いたからといって(3次高調波が1%増加)、誰も不快に感じないでしょう。楽器の音や自然の音はもともと高調波成分をたくさん含んでいるので、その高調波成分の比率は1%変ったところで、音質に影響するはずがありません。
でも実際にはアンプのひずみ率が%オーダー位にひどくなると、音質は明らかに悪くなります。ではなぜ音が悪くなるかというと、高調波成分ではなく、非高調波成分のせいではないかと思うのです。非高調波成分というのは基本波の倍数に無い成分で、無理に言えば4.5次4.数次高調波ともいえるような成分です。
鍵盤の和音の話にもどりますが、ドミソ(ドドソ)の和音で間違って隣の鍵盤を少しでも触ると、不協和音となって、それはそれは聴きにくい音になります。アンプも同様で高調波成分が少し増えるくらいならいいのですが、不協和音に相当する非高調波歪(勝手になずけたので正式な名称ではないかも)がアンプの音質劣化の原因ではないかと推測しています。
直感的に言って不協和音に関しては和音の成分の1000倍以上敏感なのではないかと思います。
アンプに関しても非高調波成分の発生は1000倍(60dB)以上敏感に聞き取っているのではないかと思うのです。 実際音の悪いAVアンプをの歪みスペクトルを見てみると、無数の非高調波ひずみを発生しています。逆に良くできたアンプには高調波歪はあっても非高調波ひずみはありません。
AVアンプの歪みスペクトル(罫線に乗っていないのが非高調波歪)
上の図は音が悪いので研究題材に良く使っているAVアンプの歪み成分のFFTスペクトルです。オーディオアナライザーの歪率計からのモニター出力をPCのADボードから入力して解析したもので、測定周波数は10KHz、出力1V、パワーアンプ出力でモニターしています。歪率は約0.05%くらいだったと思います。このAVアンプに特徴的なのは無数の非高調波成分(図の罫線に乗っていないもの)の存在です。 多いのは4次から8次位の間です。
この非高調波成分の理由は良く分かりません。今後さらに検討・考察が必要と考えられます。
12月
04
2007
今回はアンプの構成要素であるプリント基板についてお話したいと思います。
実際にアンプを作る方でないとプリント基板自体にはなじみは無いと思いますが、回路の性能を実現する上で重要な要素です。オーディオ用アンプの基板には新材料を採用したという宣伝文句が歌われている事もあるのですが、首をかしげたくなる内容も多いのです。
オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その1)
プリント基板は基板材料に銅のパターンが形成されたものです。通常は銅が非常に酸化しやすいので、表面を保護するのと、半田の乗りをよくする目的で、半田が薄くコーティングされています。最近のアンプで基板のパターンに金メッキをしたものを採用しているものがあります。金メッキはスイッチなどでは高品質の証ですので一見いい様に思いますが、そうではないと思います。
確かに金は柔らかく、腐食せず、しかも比較的電気抵抗が小さいということでスイッチ、コネクターの接点には欠かせない材料です。しかしながら、プリント基板に採用するメリットは無いばかりか、結果的に致命的な欠点になる可能性があります。プリント基板では回路の接続は半田付けです。半田メッキの場合に半田の乗りがいいのは明らかです。じつは金メッキにすると、逆に半田の乗りが少し悪くなるのです。実用上支障になるほどではないのですが、半田付けにとってメリットはありません。
まあメリットが無いくらいなら選択肢としてあってもいいのですが、プリント基板設計上やってはいけないことと関係があるのです。
オーディオアンプ用プリント基板の不思議(その2)
プリント基板設計上、やってはいけない事、それはベタ塗りの無い基板設計です。ベタ塗りの有無というのは必ずしも正式な技術用語ではないのですが、要するにプリント基板のパターン配線以外の不用な部分をアース部として残すか、不要部分をえエッチングしてなくしてしまうかの違いです。
例を示すとこんな感じです。
1.ベタ有りのプリント基板(青い部分が銅のパターン配線がある部分)
2.ベタ無しのプリント基板
どちらでも回路図上の結線という意味では同じですが、両者の動作はまったく違うと考えています。
数十MHz帯の高周波設計では 1のベタ有りにするのがあたりまえで、そうしないとまともに動作しません。高域が20KHzのオーディオアンプでは必要ないと一見思われますが、20KHzにおいて他の帯域と同様に十分にNFBをかけようとするとMHz帯までの周波数特性が必須です。それに、そもそも小信号増幅用のトランジスタの帯域幅は数百MHzまであるのでベタ塗り部を設けて回路の高周波特性を安定化することは常識なのです。たとえばアマチュア無線分野の方はどんな初心者でも実践しています。
実は2のベタ無しのプリント基板は(その1)の金メッキと関係が有ると勘ぐっています。金メッキの場合、ベタ部があると金の必要面積が多くなるので当然高くなると思います。そこで回路上不要の(本当は必要と思うが)ベタ部をなくしてしまったのではないか?と思うのです。(その1)でも述べたように基板に金メッキをするメリットは私は無いと思います。ましてや、ベタ部をなくすともう高周波で安定動作は望めません。
では2.の基板を採用しているメーカーはどうやってアンプを作っているかといえば、増幅回路の各部に局所帰還をかけて帯域幅を最初から狭くしているのです(と思います)。オーバーオールのNFBが当然少なくなり、高域の歪率が悪化すると思います。2のタイプの金メッキ基板は、ある老舗のオーディオメーカーのフラッグシップモデルに使用されています。しかも、記憶が正しければプリント基板の母材を代え音を良くしたとか、レジスト(半田の防止層)コーティング材を変えて音質を良くしたとか宣伝しています。私に言わせれば基板によって音が変ったとすれば、まず”ベタ部をとってしまったせいではないですか?”といいたいのです。
弊社のプリアンプ、パワーアンプはもちろんベタ有りの基板で、それだけではなくパターン配線に関しても相当練りに練っています。上図のパターンは実際プリアンプのフラットアンプ基板の図ですが、なんとなくパターンの模様に設計思想の様な物が感じられませんでしょうか?パワーアンプに関しては1年以上プリント基板の最適化に費やしていますし、そうしないと高周波領域の特性を手なずける事ができないのです。
最近、単にパーツに貴金属を使用して音がよくなったと高額な値付けをしている商品が増えすぎているように思います。
本当に必要な改良をして、性能も音質がよくなり、そのためにコストがかかったというのなら分かりますが、こんなに電気の常識を無視した設計をすると、電気の神様の怒りをかうことになるのではないか?と思うくらい怖いことをオーディオ業界ではやっているように思います。